【明るい気持ちになるカクテルを】
【明るい気持ちになるカクテルを】
東京でも飲食店に対する、「コロナ規制」がおさまりつつあるこの頃。およそ2年の無期限に長いトンネルをやっと抜けるかという頃。その前から、そして今も、世界の注目を浴びている北欧での信じがたい侵略戦争や、注目を浴びていなくても信じられない悲しい出来事が各地で起きている。
目を閉じても、後ろを向いても、良いのだけれど、バーテンダーとして出来る事は何だろうと考えたら、「明るい気持ちになれるカクテル」を作ってみたいと思った。
まだ5月初めの事だったから、少し気が早いけれど、「オリジナルのトロピカルカクテル」を作ろう!と。
ただ飲んでわいわい騒ごうと言うのではなく、パッと見た目だけでも、気持ちが明るく、南国のビーチサイドを思い描くような一杯を。そして、この味はずるいよねーって言うような、みんなが好きな分かりやすい味わい。それがトロピカルカクテル。
「日常の中にある非日常」である都会のバーで、たった一杯だけでも、心が温まる一杯、明るい気持ちになって前を向ける一杯を届けられますように。
【トロピカルバーテンダー】
昔からやってきた事の一部に特化して、そこに名前をつけてブランディングし、新しい言葉を生み出し、売り出すのが今のSNS時代の販売戦略なのかも知れない。
日本各地にある地酒もやがて「Craft SAKE」とか、呼ばれるのだろうか。
昔、「トロピカルバーテンダー」と呼ばれる後輩がいた。
「トロピカルバーテンダー」という言葉は、今述べた、「ブランディングの為の新しい造語」ではなく、ただの「あだ名」だ。
まだ私が東京のホテルにいた頃の話。
その後輩が仕込み番で日曜日の昼間から、バーカウンターにいると、いつもやたらとトロピカルカクテルがオーダーされる、、、らしい。
彼は背が高く、肌の浅黒い好青年で、顔立ちもしっかりしている。確かに南国のプールサイドのバーにいそうな気もするし、シンガポール出身の友達にも似ている気もする。
シフト交代の夕方5時頃になると、夜晩のバーテンダーたちが出勤してくる。その頃まで、まだ一生懸命に彼はデコレーション用のパイナップルを切っている。
あれ?まだ仕込み終わってないの?と思う。
その目線に、、
「いや、違うんです、、
仕込んだパイナップル全てトロピカルカクテルのオーダーで使って無くなってしまって、、、」
さすが、「トロピカルバーテンダー!!」
ひとつの特技だと思のだが、まだパイナップルを切り続けながら、彼は苦笑いをしている。
今日もお疲れ様!!
、、、「明るい気持ち」になってもらう為に、トロピカルカクテルのレシピを考えていたら、ふとそんな、15年前の彼の顔を思い出した。
【たくさんのバーと、笑顔と】
バーテンダーの道に入って、約25年。
「いいバーテンダーになりたいか?」と問われ、「はい!なりたいです!」と即答したあの頃。
まだ少年の様だった駆け出しの私。
はじめに、ボトルの持ち方と綺麗なキャップの開け方を学んだ。
「こういうものだ」「こうあるべきだ」「バーテンダーとして」「お酒を扱うものとして」「カウンターに立つものとして」
と、いろいろ自分が、「バーテンダー」にふさわしい振る舞いが出来るよう、先輩達の話をきき、たくさんのバーテンダーの集まる場所へ行き、その立ち振る舞いを見て学び、盗んで技を身に付けた。
今思う事は、最後は「みんな自分らしくやってみたらいい」という事。
洗練された最先端のお店から、ホテルの大箱のお店、こじんまりした街場のバー。
ホテルバーに7年+6年勤めて、(3年程焼肉屋さんをやりながら、先輩のバーを手伝って)今のお店をオープンした。
ホテルバーと、こういう個人店の違いってなんですか?とたまに聞かれる。
総合病院と開業医の街のクリニックの違いはなんですか?
ジャンルとしての大きなくくりと、大雑把な違いはあれど、それらは特定的に語る意味を持たず、どれも個々に変わってくる。個人なるほどにそれはより個性を輝かせる(輝かせていると信じたい(笑))。
もはや、「バーテンダーの目的」も個々の捉え方の違いが出てきてきるはずだ。「たくさんのバー」があり、たくさんのスタイルが成立して、定義が曖昧な場合も「バー」と呼ぶ。それで良いと思う。
でも一つ全てに共通すると信じたい事。
それはどんな考え、どんな主義のもとに行われても最後はお客様が「明るい気持ちになれる場所」。
悲しみも忘れることが出来ない、最近の、この世界で、もっともっとたくさんのバーが生まれて、もっともっとたくさんの笑顔が生まれますように。