シリーズ【鳥さん物語】〜第③羽〜
シリーズ【鳥さん物語】
〜第③羽〜
【とりせつ・とにかくあざとい】
オリーブ🫒は、とにかくあざとい。
私の人生で、
人やそのほかの生命体の中で、これほど「あざとい」子を他に知らない。
ケージの扉を開けると、一見、恐る恐ると入り口に顔を出す。「オリちゃんでる?」と聞くと、
「オリちゃんおいでー」と言う。
いつもオリーブ自身が言われて、覚えた言葉だ。
オリーブは、自分で「おいでー」と言いながら、私の腕に飛び乗って、小走りでそのまま肩まで駆け上がる。
オリーブは、つかまるのが上手だから、肩に乗せたまま私がしゃがんだり、掃除機をかけたりしても、まるで平なところにいる様に、首の周りでちょこまかと動き回る。
「あざとさ」とは、「可愛らしさと、他の何かの二律背反状態」だとオリーブを見て思う。
※英語で言うところの「ツンデレ」だ。
オリーブの癖で、好奇心からか隙を見ては「カプっ」と噛んでくる。
こんな小さな鳥さんでも普段は植物の種をそのクチバシで割って食べているのだから、その精度は高く、とても小さくだが、噛まれた場所には小さく血が滲む。
「ちょっとオリ!痛いよ!」と言うと、また、ササササッと、反対側の肩に走っていく。
そしてその反対側で、また同じ様に首の辺りを噛むのかと思ったら、今度は耳たぶを「甘噛み」する。
「愛しさと、切なさと、あざとらしさ」に、こころが待ちぼうけしそうになる。
オリーブは、とにかく可愛い。そんな所がとにかく可愛いのだけれど、とにかく可愛いと思って気を抜くと、また「カプッ」て噛んできて、首周りは血が滲む。
うちの鳥さん達3羽に優劣は無い。
しかし、形容詞として「可愛く」て「あざとい」のはオリーブ🫒だ。
そんな、オリの為に、いやオリに出逢う人のために、「とりあえず」「とりいそぎ」『とりせつ』が必要だなと思う今日このごろ。
【トリケラトプス・激突】
そんなオリーブ🫒がウチに来たのが9月18日。ヒマちゃんが来たのが5月8日だから、およそ4が月前には誰もいなかったウチにはその時で鳥さんが2羽。
オリは、当時生後2ヶ月で、人がスプーンで1日4回くらい、餌やりをしないといけなかった。
鳥のおじさんに言われた通りに、その間はまだ鳥籠に入れず小さなプラケースで育てていた。
オリは来た時から人見知りをせず、気軽に人の指に乗って来た。仰向けに手のひらに乗せると気持ちよさそうに目をつむり、そのままウトウトと寝てしまう事もあった。
そんなある日、あの悪夢の再来が。突然、オリに「トリケラトプス」が憑依したかの様に飛び上がり、一直線に窓に激突してしまう。レースのカーテンはしてあったのに、その僅かな隙間の光を目掛けて飛び込んでしまった。
力なく床に落ちてオリは動かなくなってしまう。また、「あわわわわわわわ、、」となる私。すぐに妻に連絡をしたら、今からすぐ診てくれると言う動物病院を探して、病院のホームページと、行き方が送られてくる。
「あわわわわ、、」となった私はかつて1日に5回電車を乗り間違えて、その日の午前中ただ、電車を乗り換えただけで渋谷駅に到着し、悔しくて駅で泣いていた事がある(笑)
荏原駅かどこかで降りて、痛そうに震えているオリの入ったプラケースを抱えて、泣きながら緑道をすすむ。
鳥の先生は、体の構造を熟知しているから、うまく指でオリを持つと、羽を綺麗に伸ばして折れていない事を確認。レントゲンでも異常はないと。
ただぶつけて痛みがあるからと、人間の目薬みたいなサイズの飲み薬をくれた。
あの頃を思い出すと、今の3羽がマイペースで暮らす生活は本当に感謝でしか無い。
【とりもどす・記憶喪失】
半年くらいは少し歩くのがぎこちなく見えたオリも、今は本当に多彩な動きをするし、1番細やかに飛び回れるのもこの子だ。
そして、放鳥してる時も常に肩の上にいてくれるのがオリだ。お休みをする時は、ケージの扉の方に来てくれて、片手でつかまりぶら下がりながら、もう片方の手は頬杖をつく様なポーズでウインクする。
これを私は「かわいい、かわいいのポーズ」と呼んでいる。
タイミングが合うと、「オリちゃん」「オリちゃん」と連発してくれる。
オリーブ🫒は、ウロコインコという種類のインコだ。何かあるとアドバイスをくれる鳥飼の先生の所もウロコちゃんがいる。これがウロコちゃんの傾向なのかはわからないが、何かのストレスで自分の羽をむしってしまう事があるという。オリにもその傾向が少し出てしまった頃、あんなにあざとくて愛らしいオリが突然、人見知りになった。
もしかしたら、鳥年齢的に思春期を迎えてる頃でもあるから、そういう成長の過程なのかも知れないが、とにかく突然手に乗ってくれなくなるし、肩にも乗らない。まるで記憶喪失になってしまったかの様なよそよそしさ。
それでも良い。それでもオリは可愛いし、餌も食べてるし、ちゃんと飛び回っている。パソコン業務をしていたら、パソコン用のメガネにぶら下がって来て、邪魔をする愛らしいオリでなくなってしまったのか。
でもそう言う時こそ、ゆっくりと時間をかけて様子を見て、また少しずつ、少しずつ、関係を「とりもどす」。とりだけに。
元気なだけ。それだけで何より。
良いのよ、君はそのままで。
いつもありがとう。オリ。
と思っていた矢先、突然またパタパタと飛んで頭の上に飛び乗ってくる。そして、後頭部を伝って肩に乗る。
ああ、やっぱりオリはあざとい。
そしてまた思い出したかの様に、ぶら下がって頬杖をつく様にウィンクをして、久々の「かわいい、かわいいのポーズ」をするのだ。
【止まり木・このお話のあとがき③】
オリの激突に関しては、今もずっとオリはごめんねの思いが消えた事はない。今元気なオリを見ると涙が出そうになる。それでもオリは許してくれたのかまた、「かわいい、かわいいのポーズ」をしてくれる。
子育てもそうかも知れないけれど、懸命に見ていても、アクシデントは起きてしまう。息子も自転車がうまく乗れる様になって少し余裕が出た時に、スピードの限界に挑んだのか、急にハンドルが傾いて唇から転んだ事がある。
ヘルメットのツバは割れて飛び散る。
幸い残る事のない傷はもう無かったかの様に消えているが、私の心から消える事はない。