【鰹節の目利きという世界】
【鰹節の目利きという世界】
お店では、お客様がお酒を飲まれた最後に、コンソメスープをお出ししている。
BARを出た後は歩いて帰るだけの方が多いので、寝る前に少しだけ温かくて塩気のあるものをお出しすると喜ばれる。
日常生活の殆ど、お店の仕込み中もラジオを聴いている私は、多くの情報のきっかけをそこから摂取している。
いつもの様にラジオに耳を傾けていると、「鰹節の目利き」という世界に飛び込んだ女性の体験談と、その世界のお話が流れてきた。元々料理人だった彼女、しかしそのお勤め先では、削りたての鰹節を使って出汁を取っていなかったという。そしてその彼女が、「本枯節」と言う、最高峰の鰹節と出会った時、惚れ込んで魅了されたと言う。
もはやその生産量は、全体の0.1%と言う「近海1本釣り」の最高級の鰹で作られる鰹節。鹿児島県枕崎市で丁寧に作られ3カ月ほど天日干し、熟成した鰹節は、目利きの元に送られる。
目利きは、それらを更に天日干しして、乾燥、熟成させるのだが、長いもので一年半近くにもなる天日干しの繰り返し。1本、1本を見極めて、それぞれの鰹節に合わせていく。
目利きは、乾燥された鰹節を見るだけで、油の乗り具合、それが近海か,遠洋か、1本釣りか、巻き網か、さらには、誰が仕込んだかまで分かってしまうと言う。その鰹節を見て、お客様の好みに合わせた、出汁が出る様に、見極め、選別して、送り届ける。そんな事が出来る「目利き」と言う仕事が出来る人はもう殆どいないと言う。
【初めての出汁】
こんな世界があるのかと、私も飛び込んでみたくなった。目利きがいるのは鰹節の「タイコウ」さん。そこに飛び込んだのは大塚麻衣子さんと、ラジオで言っていた。
SNSアカウントを見つけたので、直ぐに連絡をしてみた。自分でもHPを調べたり、検索サイトを見て鰹節の引き方をネットという鍋から煮出して絞り出す。それでも、どんなカンナを使っていいか、、と言うか何から始めていいかもよく分からない。
背中の身で作る鰹節を「男節」、腹の身を「女節」。燻製して乾燥させた鰹節のタールを削り落とし、カビ付けをしてさらに長く熟成させた最高級の鰹節を「本枯節」と呼ぶ。
一言で鰹節と言っても、何種類もある事を知る。
教えてもらいながら,カンナを買い、もちろんタイコウさんで鰹節を買い、しまってあった昆布を引っ張り出して、見様見真似で出汁を引く。
削る鰹から何とも懐かしいいい香りが立つ。
昆布は前日に水にいれ、70℃以下で煮る。その出汁が煮立つ前に昆布をとり、煮立った頃に「本枯節」を削り終える。鰹節は、削り立てが1番良い。
鰹節を丁寧に濾すと、何とも透き通って美しいお出汁が出来上がる。店に立ち込める、お出汁の香。
思わず、「ああ、、」と声が出る。
「うまい。」
初めて引いたお出汁なのに、驚くほど美味い。
【お出汁教室】
タイコウさんの名前で色々調べていたら、アプリの「note」で、大塚さんがお出汁教室を定期的にやっていることを知る。
西荻窪にある群言堂 (暮らしの研究室)さんの2階をかりて、行われるお出汁教室に直ぐに参加申込をする。
その日は1人キャンセルが出て9人でのお出汁教室となった。今の普通に想像する、鰹節のほとんどは、巻き網漁で安価だが魚の傷みがすごい事、近海1本釣りは、本当に僅かで、そんな魚の骨を職人が1本ずつ抜いて、その穴に鰹のすり身を埋め込み製品になった時に割れを防いでいる事。その仕事の綺麗さ。その為に魚を捌ける人がどんどん減って殆どいない事。
職人の手仕事は、鰹節の旨味を最大限に保持するが、大きな工場での機械作業は、「酸味」、「渋味」、「苦味」、「エグミ」が出たり旨味が損なわれたりしてしまう事。値段を安くする分、やむ終えない流れ作業。1つ1つに想いと手間暇かけた職人の仕事の貴重さ。
そんな話から、それに合わせる昆布の話。真昆布、ラウス昆布、利尻昆布、日高昆布が、大阪、京都、江戸にそれぞれ、根付いて行った理由など。また、関西を通り過ぎて東京に鰹節の大きな市場が出来た理由。
奥が深く、興味が深く、歴史が深い。お出汁の話。
止まらない質問。止まらない疑問や興味。
そして、いざ鰹節をカンナで削る。目の前にあるのは大きな本枯節。目利きはこれを見ただけで、全てがわかる。説明を受けると我々も、どれが腹の身で、皮がどこで、どこから削るのか、何となく分かる。
しっかり体重をかけて削ると、たまにカンナと節が噛み合って、心地いい良い音と共に削れてゆく。
前の晩から水に浸けて置いてくれた真昆布を、そのまま鍋に移して火をつける。泡が鍋底にプツプツで出す頃が60〜70度の昆布出汁をとるにあたっての適温。これ以上、上げても昆布出汁はでない。
昆布を取り出して更に強火にして、先ほどの削り立ての本枯節を計って投入する。削り終わる頃に、お湯が沸いているのがいい。
タイコウさんの唯一の取引先である鹿児島県枕崎市の、宮下さんの鰹節は、丁寧に作られているから、失敗がない。沸騰して煮立てても、雑味がない透明なお出汁が出来る。
私が1人でお店でやった時も、初めてで、美味しかったのはその為だと、そこで知る。
2テーブルに分かれて2つの鍋でお出汁を引く。その横で先生も鍋1つに出汁を引く。どれも綺麗に透き通る。
それなのに、綺麗に色が3色に別れた。皆同じ真昆布のお出汁に本枯節を入れたのに。色も違えば味も違う。どれもため息の出るほどの美味しさ。なのに、それぞれに、特徴がでる。1つは鰹が強く、もう1つは比べると昆布が立っている。そして最後の1つは昆布が主役に感じる。
これこそが目利きの力。脂の多いもの、中間的に昆布を引き立てるもの、そして痩せ気味の節は昆布を主役にする様だ。私達は見ただけでは、決して分からない。そういう、目利きと言う職人の仕事。鰹節を作る職人から、そのバトンを受け取り熟成させて、鰹節を引き料理をする職人に繋ぐ。長い歴史で繋いできた。
そんなお出汁の世界。鰹が主体、昆布が主体は、地域や育ちの味覚による好みの世界。そこに、どちらが良いというものが、あるのでは無い。あるのは、それを選んで繋ぐ「鰹節の目利き」という仕事だ。