【時間をかけて】

【時間をかけて】

『Blanton's』「'」を除くと8文字で綴られる、お酒がある。アメリカケンタッキー州で作られるバーボンウィスキー。


ケンタッキーダービーという有名な競馬の競争が行われる事から、キャップの上に金属製のサラブレッドが乗っていて、この8文字の頭の「B」からはじまり、レースのスタートからゴールまでの馬の走るすがたが、8種類のスタンスで表現されている。


実はこの8種類の馬達。レア度が違う。頭文字の「B」はスタートラインに立つ。この馬は唯一、まだ走らずにたたずんでいる。そして最後の「S」は、ゴールラインを超えてガッツポーズをしている。

これも唯一の馬。

この2種以外は、足の角度が違えど、全て走っているので、足元のアルファベットを確認し無いと順番がわから無い。


私はゆっくりと、時間をかけて、10年以上経てこのキャップ8種を集めコンプリートした。そして今、そのレースは2週目に入っている。


たまに磨いてやる馬達は、いつも力強い足取りで、走っている。


【休息と宴】

イスラエルにボランティアに行った時、「安息日」と言うものを横目で体験した。


旧約聖書の創世記、神の天地創造の七日間。最後の日、金曜の日没から、土曜の日没までを言う。


ユダヤ教ではシャバットと言い、敬虔な信者達はその間の労働や食事なども制限されている。


金曜日の夜は少し豪華な食事をとり、その後は、ゆったりと家族で過ごすのだ。


神様も休む時があるなら、人間はもっとゆったり休む時がないと身が持た無いのかも知れない。


そんな事を横目に、私たち当時若かった各国のボランティアは、施設内のバーに集まり、お酒を煽り、音楽に身を委ねた。


疲れなど当時は知らなかったのだ。



【流れる時、足を止める】

カウンターに座る「お客様」から、報告を受けた。


私、今の仕事辞めることにしましたと。


自覚が全然なかったようだが、だいぶ心身が参ってしまって、今はゆっくり休むべきと、2人の医師より身体の視点、心の視点から、提言があったのだそうだ。


私にも似た経験があった。

高いノルマと長い労働時間、更に続く飲みの席。

体は半年で悲鳴を上げ、その2ヶ月後に会社を辞めた。


次も決めずに辞めた為、東京から横須賀の実家に戻るしかなかった。


しばらく社会に戻る気にもなれず、ボーッとして、やる事も決まらず、何となく近くの製造工場のアルバイトを始めた。


「逃げる」と言う経験をしたと思った。

同時に「逃げる」事も大事だと思った頃、工場で、今もたまに連絡をとる「友達」が出来た。


「またBARに戻ってこ無いか?」


との誘いを受けたのもこの頃。

そして、横須賀で再び「バーテンダー」になった。

「離れ、立ち止まり、また少し進み」


ゆったりと時は流れる。また10年ほど経った頃。

カウンターの「お客様」に、何かオススメのバーボンをと言われ、たまたま手に取った丸いボトル。

「あっ、私、そのお酒好き。」

「Blanton's」という、そのお酒のボトルの上には、「足を止めた馬」が、佇んでいた。


頭文字の「B」の馬。

しばしの休息をしているのか、今か今かと、次のスタートを待っているのか、わからない。


「琥珀の液体」が注がれたグラスと共に

私は「それ」を手渡した。

師走と呼ばれる「月」の来る、少し前の事。

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